真面目にコツコツやってきた平凡なサラリーマンの「田中」。一方で、人生で特別「これ」というエピソードもなく、30歳を迎えて「これでいいのか?」と思い始めていました。
ふと「税理士」の資格が気になっていると、不思議な人物が近づいてきて、何やら「税理士」について教えてくれるようです。
(田中)「税理士かぁ。昔、簿記はちょっと勉強したから、少しは入りやすいかな。でも、『税理士』は国家資格で相当難しそうだし、もともと勉強ができて高学歴な人が取る資格ってイメージが……。」
(謎の人)「そんなことないよ。どちらかと言うと、社会人になってから一念発起した人が多い資格だよ。田中くんみたいにね。」
「えっ?そうなの?というか誰?」
「僕のことより、君が気になるのは税理士のことでしょ。教えてあげるよ。」
「あ、ありがとう(本当はどっちも気になるけど……。)」
1.税理士の仕事
税理士の仕事、知っていますか?
「まず、税理士ってどんなイメージ?」
「実は詳しく知らないんだよね。なんとなく『お金や税』に詳しくて、書類に囲まれて、計算して、細かい仕事をしていそうな……。」
「それも間違いではないかな。じゃあ、田中くんはそういう仕事がしたいのかな?」
「うん。イメージだけど、コツコツ作業するのも好きだし、人の役に立ってやりがいもありそうだなって。街でも『税理士事務所』ってよく見かけるから、仕事もありそうだし。」
「なるほど。じゃあ税理士の仕事について、もう少し詳しく見ていこうか。まずは実際に税理士を目指す受験生に、その魅力を聞いてみたよ。」
★仕事の魅力アンケート~税理士受験生の声~
名前からイメージできる通り、税理士は「税務のプロフェッショナル」です。その仕事の魅力として最も票を集めたのは、やはり「専門性がある」という点でした。
「今の自分には『どこに行っても通用するスキル』や、それを示すものがあんまりないんだよね。だから『専門的な資格を取ってスキルアップして、自信を持って働きたい』って気持ちはすごく共感できるな。」
「税理士みたいな『士業』『国家資格』は、本当にその分野を極めた人ってかんじで憧れるよね。」
「でもよくよく考えると、『税金に詳しい』ってだけで、そんなに仕事があるものなの?」
こんなにある日本の税金
まず、日本には何種類の税金があるかご存じでしょうか。日本の税金と言うと、日常生活でよく耳にするものでは「消費税」「住民税」「所得税」などなど。その他、「よく知らないものも含めてせいぜい10~20種類くらいかな?」……なんて思ってしまいそうですが、実はなんとその数およそ50種類!
ここではご紹介し切れませんが、たとえば「国際観光旅客税」「ゴルフ場利用税」など、意外なものに税金がかかっていたりします。気になる人は調べてみると面白いかもしれません。
「すべての税金が全員に関わるわけではないけどね。たくさんある税金の複雑なルールをそれぞれ把握して、申告や申請をしたり、計算したり支払ったり、なんて、誰でも簡単にできることではないでしょ?」
「確かに。正直言って、今は税のこと、あんまりちゃんと理解しないまま払ってるかも……。」
「やっぱり専門家でもないと、すべての種類の税金について覚えるのはむずかしいよね。とはいえ、よく知らずに税金を払っていると、個人でも法人でも『実は今までずっと損をしていた』なんてこともあるかもしれないんだ。」
「そこで税務のプロフェッショナルの出番だね。」
【税理士の独占業務】~企業の強い味方~
税理士になると、「税務の専門家」ということを証明できるだけでなく、有資格者だけがその業務を行うことを許されている「独占業務」を行えるようになります。その業務とは、大きく分けて次の3つです。
税務代行
法人や個人の納税者に代わり、税務署などへの税に関わる申告や申請、請求を行うことができます。また、企業の税務申告が正しく行われているか、税務署などの組織が直接やってきて確認しに来る「税務調査」に立ち会うことや、たとえば「税金を取られすぎたので、その分のお金を返して欲しい」といったような、納税者と税務署での意見の違いによる「税務訴訟」の際に、納税者の「補佐人」として出廷することで、納税者の援助もできます。
税務書類の作成
納税者の代わりに、法人税や所得税などの申告が必要な税について「税務申告書類」を作成することも、税理士だけが行うことができる業務です。
税務相談業務
税金に関する具体的な相談は、有償無償に関わらず、基本的に税理士の資格がないと受けることができません。無料の税務相談を行っている税理士事務所も多く、そこから実際に顧問契約へ、というパターンも多いようです。
「この3つはすべて今後もなくなるようなものじゃないし、毎年のように税法も改正されて複雑になっていく一方……。」
「税理士になれば、今後もますます頼りにされて、やりがいもありそうだね!」
【独占業務以外の業務】~こんな活かし方も~
税理士しか行うことのできない独占業務の他にも、記帳代行などの会計業務や、その会計や税に関する知識を活かしたコンサルティング業務などを行う税理士も多いです。例えばコンサルティング業務の場合、税理士であれば、節税や経営に関する具体的なアドバイスができますので、経営者のよき相談役になれることでしょう。
また意外なところでは、保険の加入が節税に関わることから、保険代理店としても登録している開業税理士の方も多いです。他にも、医療やエステ、飲食店、予備校の講師など副業を広げて活動したりしている税理士もとても多いとのこと。その理由は、税理士として開業してすぐの不安定な収入を補うためや、人脈作り、純粋にその分野に興味があったなど、実にさまざまです。税金に関する知識はどんな分野の経営にも活かせますので、一般的な「税理士」という枠だけに囚われず、将来自分の興味のある分野で活用していくのも面白そうですね。
「もし税理士として働いてみて、万が一『やっぱり他の仕事もしてみしたい』と思っても、他の分野でも活かせるんだね。」
「どんな分野でも、お金が関わっている限り『税』は切っても切り離せないからね。」
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2.税理士と公認会計士、社会人におすすめなのは
会計系資格の2トップ
「会計系の資格っていうと、よく税理士と比較される『公認会計士』も聞いたことあるんじゃない?」
「あ、そういえば。どう違うんだろう?」
日本の会計系資格の2トップである税理士と公認会計士。実は公認会計士も、公認会計士としての独占業務である「監査業務※」の他に、税理士として登録手続きをすれば、税理士の業務を行うことができます。となると、税理士よりも、公認会計士の方が一石二鳥で得なようにも思えます。しかし、この2つの資格を比べると、公認会計士の受験生は、学生と社会人(または学卒者)の割合が半々くらい。対して、税理士の受験生は9割程度が学卒者。税理士の方が圧倒的に社会人受験生の割合が多いのです。それはなぜなのでしょうか。
※監査業務・・・公認会計士の独占業務。その企業の決算(一定期間での利益と損失の総計算)が正しく行われているかをチェックし、株主などに対し決算報告書の信頼性を証明する仕事です。
【受験資格】はどう違う?
税理士:受験資格が必要
公認会計士:誰でも受験可能
税理士試験を受験するには、いくつかの受験資格の中からいずれかを満たす必要があります。
例えば、「大学か短大、高等専門学校を卒業していて、法律学または経済学を1科目以上履修している」、「法人または事業を営む個人の会計事務に2年以上従事している」など、税理士試験の受験資格は、学生よりも大卒者や社会人の方が満たしやすいのです。
(学生や高卒者の方でも「日商簿記検定1級合格者」など、条件を満たせば税理士試験を受験できます。)
【試験制度】にもこんなに違いが
税理士:1科目ずつ受験が可能で、一度合格した科目は生涯にわたって有効
公認会計士:一定期間で全ての科目に合格する必要がある(科目合格の有効期限は2年)
この特徴も、仕事であまり時間の取れない社会人には少しずつ合格を目指せる税理士、比較的時間のある学生や専業受験する場合には公認会計士が人気な理由の一つです。
ただし税理士試験は、1科目ごとの内容は非常に濃く、ボリュームもあります。さらに例年、各科目とも上位10%~20%程度の受験生だけが合格できる競争試験(相対評価)なので、決して楽というわけではないのですが……。
とは言え、税理士試験の内容は非常に実用的なものになっていて、1科目だけ取得し仕事に活かしている人も居ます。また、税理士の場合、科目合格でも履歴書に書くことができます。日常生活で役に立つ知識も多いので、「まずは1科目」というのもありかもしれませんね。
「もちろん、学生で税理士に合格した人や、働きながら公認会計士に合格している人も、毎年一定数いるけどね。」
「なるほど。でも僕の場合は性格的にも、一歩一歩着実にクリアしていく税理士の方が合ってるかも。」
「もし『監査』に興味があるなら公認会計士を目指すしかない。でも、田中くんが監査にはこだわりがなくて、『独立して自分の事務所を持ちたい』とか『人の役に立ちたい』『手に職をつけたい』という気持ちが強いなら、働きながら目指すには「税理士」の方がおすすめかな。」
「受験資格」「試験制度」といった選択基準の他にも、一般的には、中小企業や個人事業主など、身近な人たちの力になりたいなら「税理士」。監査を通じて大企業・有名企業を相手に仕事をしたいなら「公認会計士」という考え方もあります。似ている点もありますが、同じ会計系資格と言えど、前述のように、学習する内容や試験方式はかなり違っています。また、公認会計士が税理士業務を行おうとすると、税務についてあらためて勉強する必要もあります。どんな人を相手に仕事をしたいのか、税務と監査どちらに興味があるか、などをポイントに、この2つの資格を比較してみるのもよいかもしれません。
3.税理士の収入、現実的にはどれくらい?
所得アップは見込めるのか
「せっかくみんな苦労して税理士を目指すんだから、お金もたくさんもらえるのかな。」
「そこもやっぱり気になるよね。」
★所得・年収アンケート1~税理士受験生の声~
こちらのアンケートによると、実に60%の受験生が、「税理士資格の取得で所得アップが見込める」とのこと。税理士資格の取得によって、今より条件のいい仕事への転職や開業を考えている人が多いようですね。
そして10%の受験生からは「手当てがつく」という声も。事務所や企業によっては、資格取得により手当てが付くところもあります。特に税理士事務所の場合は、税理士を目指して勉強をしながら税理士事務所での仕事もこなす「兼業受験生」も多く、科目合格による手当てが出るところも多いです。手当ての額は事務所によって異なりますが、いくつかの事務所の採用情報などを見ると、1科目あたり5,000~10,000円/月くらいが相場のようです。
そして次に気になるのが、「具体的に、どのくらいの金額の年収が見込めるのか」ですよね。まずは実際の税理士受験生が、どのくらいの金額を理想として税理士を目指しているのかきいてみました。
★所得・年収アンケート2~税理士受験生の声~
「半分以上の人が、800万円以上の年収を目指しているんだね。東京都の会社員の平均年収が、確か600万円くらいだったかな。」
「受験生の理想は、『標準よりちょっと高めの収入は得たい』ってところか。」
実際に税理士事務所・税理士法人の正社員の求人を調べてみると、事務所や勤務地、経験や業務内容によってかなり幅はありますが、たとえば関東では予定年収を400~700万円程度としているところが多いようです。あれ?意外と少ない?と思う方も居るかもしれません。しかし、こうした求人は、税理士資格の保持者に限らず、無資格の方や科目合格の方など、これから税理士を目指す方でも応募できるものが多く、また「入社時の予定年収」となります。そのため、税理士試験の最終合格者であれば、この予定年収の最低金額となる可能性は低いと思われます。大手の税理士法人などでは予定年収1,000万円程度を提示している求人もありますし、もちろんその他の税理士事務所・税理士法人でも勤続や昇進によって、将来的に求人に記載されている以上の年収を期待できる可能性はあるでしょう。
この他に注目したいのは、賃金構造基本統計調査(平成29年度)によると、60代以上の税理士(公認会計士含む)でも平均350~650万円程度の年収を得ているということ。
「あれ?税理士って定年はないの?」
「うん。企業内税理士なんかだと定年はあると思うけど、資格そのものには定年はない。個人の税理士事務所だと定年が設定されていないことがほとんどだよ。もちろん雇ってもらう以外にも、田中くんが自分の税理士事務所を開いて、働ける限り働いて収入を得ることもできる。実際、老後を見据えて税理士資格を取得する人も多いみたい。」
「みんなすごいバイタリティ!見習いたいな。」
「ほんとだね。日本税理士会連合会の調査(平成26年度)だと、日本の税理士のうちおよそ54%が60代以上なんだって。だから、30代やそれ以上の年齢で税理士になっても、これから十分に活躍できる。田中くんも負けてられないね!」
なお、一般企業で企業内税理士として働く場合には、勤め先の企業や業界の水準、業務内容、役職によって大きく年収が変わってきます。
また、開業税理士の年収についても調べてみると、ネット上の記事などでは「一般的に平均年収3,000万円程度」という記載が多く、開業で大成功すれば年収1億円を超えるケースもあると言われています。一方、実務家の方の話ですと、食べていけずに税理士を辞めてしまった方でも年に400万円くらいは稼いでいたりするとのこと。仕事を取っていくためにはある程度の営業努力などは必要かと思いますが、極端に低いということはあまりなさそうですね。
「独立すると、稼いだお金の中から経費もかかるからね。」
「税理士業務だけじゃなくて、そのあたりのやりくりも必要なのか。独立となると色んな能力が必要なんだね。大変そうだけど、それはそれで面白そう!」
結局は、税理士資格を持っている人でも働き方・活かし方はさまざまです。もちろん同じような働き方でも、事務所や企業、その人の能力により収入は変わってきます。合格しただけで高収入が約束されるわけではありませんが、合格後の努力によって高収入を目指すことは十分に可能と言えます。
4.税理士に向いている人とは
「数字に強い」だけじゃない
「税理士になるメリットは結構わかってきたけど、そもそも僕は税理士に向いてるのかな?」
「そこも仕事を選択する上では重要だよね!」
★向いている人アンケート~税理士受験生の声~
※上記グラフは、自由記述にて回答いただいた内容を大まかに分類し集計したものです。
「おっ、田中くんに当てはまりそうな項目が多いんじゃない?」
「確かに、地道な努力は得意かも!やっぱり1科目ずつ勉強していく人が多いからかな?」
「もちろんそれもあると思う。それに、年々改正されていく税法に対応して行ったり、食べていけるだけの仕事を請けたりするには、やっぱり合格してからも努力が必要になる。」
「自分や誰かのためになると思えば、頑張れる気がするな。」
また最近では、「税理士は人工知能(AI)に仕事を取られてしまい、将来的にはなくなる職業」と言われることもあります。確かに、昨今の会計ソフトや人工知能(AI)などの技術はどんどん進歩しています。会計という分野でも、ある程度までは機械で自動処理することが可能になってきました。そうなると、今までと同じやり方をしていたのでは、仕事は減っていってしまうかもしれません。
このような波に負けず税理士として活躍していくには、人間にしかできないコミュニケーションやコンサルティング、発想といった部分も重要です。たとえば、顧客の想い・意図を汲み取った上での提案や伝え方、機械には真似できないアイデアや対応で顧客に貢献し、人と人ならではの信頼関係を築く。あるいは、より精密で臨機応変な処理のできる会計ソフトや人工知能(AI)の開発、そういったサービスの活用範囲の拡大に貢献するなど、「税理士としての自分の知識の活かし方」を時代に合わせて模索することも必要で、そういった面での努力も求められるでしょう。
他には、「数字が得意」「几帳面」「真面目・誠実」「正確さ」など、真面目で仕事が出来る人といったような項目が並びましたが、特に独立してからは、顧客やその仲介者となり得る経営者や事業主、時には仕事を回してくれたり助け合ったりできる税理士仲間などの「人脈」も大事です。また既に持っている人脈も武器になりますが、継続して仕事を請け続けるために、顧客と良い関係性を長く持続させていくスキルも、税理士にとって重要な要素です。
「税理士って実は、ちょっと個性的で、どこか人間的な魅力がある人が多いんだよ。」
「なるほど。真面目なだけじゃなくて、人として好かれる税理士……僕もそんな風になりたいな。」
5.まとめ
税理士に合格するメリットは他にも
税理士の仕事や合格するメリット、少しは参考になったでしょうか。
最後に、こんなアンケートについてもご紹介しておきたいと思います。
★魅力アンケート番外編~税理士受験生の声~
「自分に自信……確かに、『資格』が気になった一番の理由はそれだな。」
「せっかく今から忙しい中で勉強するなら、決して簡単ではないけど、仕事や人生にも役に立って、大きな自信もつく『税理士』はいい選択肢かもしれないね。」
この記事では業務や試験を中心に触れてきましたが、税理士は「難関資格を取得することで自分に自信がつく」「様々な企業や顧客を支え、助けることで社会貢献できる」など、また少し違った見方での魅力もあります。
具体的に「こんな業務がしたい」「これが得意」というのは、もちろん目指す資格を選択する上で重要な点です。しかし一方で、こういった一歩引いた観点で見た時に「自分にとって魅力的か?」というのも、その職業を長く続けるためには重要かもしれません。
もしこの記事で、少しでもピンと来た方は、「税理士」の受験を検討されてみてはいかがでしょうか。
<登場人物紹介>
謎の人:誰だか知らないけどやたらと資格に詳しくて教えたがり。ついつい怪しい人かもしれないということを忘れ、みんなが会話を続けてしまうという謎のスキル(?)を持っている。これも何かの資格の為せる技なんだろうか?それもまた謎である。 田中:真面目で几帳面なのが長所のサラリーマン。30歳を迎え、今までなかった「人生でこれをやり遂げた」という何かが欲しいと思っている。そこで、安定した将来のためにも、手に職がつく「税理士」への挑戦を検討中。やっぱり真面目。 |